医療法人 あげつまクリニック
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現代医学をさらに拡張し、 肉体以外の目に見えない存在に視線を向け、人間の存在を、 過去・現在・未来の時間の流れで把握し、 宇宙全体との関連の中で人間をとらえる医学。
アントロポゾフィー医学は、1920年代のはじめにオーストリア出身の思想家ルドルフ・シュタイナー(1861~1925)とオランダ人の女性医師イタ・ヴェーグマン(1876~1943)ら数名の医師との共同作業によって創始されました。「アントロポゾフィー」という言葉は、ギリシャ語の「人間」を表すアントロポスと「叡智」を表すソフィアとを合成した語で、シュタイナーが自らの思想を指して使ったものです。 アントロポゾフィー医学が目指すところは、科学的な通常の現代医学に加えて、シュタイナーの思想に基づいた世界観、人間観からも人間の成り立ち、疾患の成り立ちを洞察し、それを診断・治療に生かすことにあります。シュタイナーとヴェーグマンの共著『精神科学(霊学)的認識による医術拡張のための基礎』(1925年)のタイトルにもあるように、アントロポゾフィー医学は通常の医学と対立するものではなく、それを「拡張」するものとして理解できます。 さらに、シュタイナーの人間観はその世界観、自然観、宇宙観と不可分に結び付いていますので、アントロポゾフィー医学では、人間を周りの自然や宇宙全体との関連の中でとらえて、それを実際の診断と治療に役立てます。 なお、「アントロポゾフィー」は日本ではしばしば「人智学」と訳されることもあり、そのためアントロポゾフィー医学は、人智学医学あるいはシュタイナー医学と呼ばれることもあります。
アントロポゾフィー医学の歴史
1921年のドイツのシュトゥットガルトとスイスのアーレスハイムに最初の治療施設と後のヴェレダ社とヴァーラ社の前身となる付属の薬剤研究所がつくられました。 それ以後主にヨーロッパにおいて、アントロポゾフィー医学の診断ならびに治療分野における研究と臨床応用が継続的に展開され、個人の開業医に加えて、ドイツ、スイス、スウェーデン、イギリス、オランダ、イタリア、アメリカ、ブラジルなどに病院、療養所ができました。そのほか現在ヨーロッパの大半の国々、南北アメリカの国々、オーストリア、ニュージーランド、ロシア、日本など多くの国々でアントロポゾフィー医学が実践されています。 そしてアントロポゾフィー医学はシュタイナー、ヴェーグマンらによって完成された医学というわけではなく、その後今日に至るまで、多くの医師や研究者達の手によって実践され、発展し、さらに現在も発達中の医学でもあります。
アントロポゾフィー医学の基本概念
シュタイナーは人間を精神(霊、Geist)、心(魂、Seele)肉体(体、Leib)が有機的に統合した存在であるととらえました。つまり、肉体以外の目に見えない存在の働きをも含めて観察したとき、はじめて人間を全体として見ることができるというわけです。さらに、その人間の中で生起すること全てに、外界の自然や宇宙のなかで生起することとの間の密接な関係性を認めます。加えて、人間の本質は輪廻転生を繰り返して、進化、発達して行くものであるともとらえていますので、人間の存在は過去から未来へと続く時間の流れのなかでも把握されます。 このような視点から人間を観察し、疾患の成り立ちを認識してゆくために、アントロポゾフィー医学では、以下に説明するような概念に基づいて人間あるいは病気の状態を把握して診断、治療を考えてゆきます。
シュタイナーは、人間の本質を、存在様式の違う4つの構成要素、すなわち肉体(物質体)、エーテル体(生命体)、アストラル体、自我から成り立っているものととらえました。 これら4つの構成要素については、人間以外の自然界の存在と比較してみると、それらの特徴をごく簡単につかむことができます。肉体は物質レベルのみの存在であり、その意味で鉱物界と共通の存在ですが、植物は物質体とエーテル体からなる存在であり、動物は物質体とエーテル体とアストラル体からなる存在であると考えることができます。そして人間はさらに自我があって、それは人間を他の存在と明確に分けるものということになります。 「肉体」は、私達の五感で知覚可能な物質体ですが、他の構成要素の働きなしには、その形態と機能を保つことはできず、そのものだけでは、鉱物界の法則に従って、崩壊してゆくものです。 生きている間、この肉体を崩壊させないように、鉱物界の法則に対抗して働きかけているものが「エーテル体」または「生命体」と呼ばれる構成要素です。人体の成長や生殖をつかさどる力でもありますが、一方、人間の成長とともに、思考などの高次の働きの源泉となるものでもあります。 さらにこの生命ある肉体に意識をもたらすものが「アストラル体」です。それは共感・反感といった感覚、そして感情を持つことを可能とするものでもあります。つまり、それによって何かを内的に体験することが可能になるとも言えます。 そして、人間をそのほかの存在から区別するもの、人間を万物の霊長たらしめているものが「自我」ということになります。それによって人間は、自己意識を持ち、外界に左右されるのではない持続する体験を自らの内に持つことができます。それは、一人ひとりの人間の中に存在する永遠に進化・発達をして行く個性として認めることができます。 これら4つの構成要素が互いに動的な平衡状態を保ちながら成り立っているのが人間であると考えることができます。
◎人間の機能的三分節
人間有機体をその機能の面からみると、全体としても、また各個別のどんな細かい場所についても、ある対局的な働きが常に動的なバランスをとりながら営まれていることが分かります。つまり、人間は、機能の面からは、2つの対局的な働きと、それらの間にあってこれを仲介する働きの3つの異なった系統に分けて考えることができます。対極的な働きをしているものは、神経感覚系、代謝四肢系、それらの中間にあってバランスをとっているものはリズム系(呼吸循環系)と呼びます。 身体全体として見た場合には、神経感覚系は主に頭部領域で、リズム系は胸部、代謝四肢系は腹部と四肢で目立ってその働きが認められると言えます。そして心(魂)の3つの能力であるところの思考、感情、意思はそれぞれ神経感覚系、リズム系、代謝四肢系に主に担われていると考えることができます。 この三分節構造を把握することによって、人間有機体の機能、形態における両極性が理解され、霊ー魂的なものと生命ー肉体的なものとの関係が明らかになります。 以上に述べたような概念によってとらえた人間の状態は、さらに以下に述べるような概念を考慮することによって、自然や宇宙全体との関連の中でとらえることができ、それが診断と治療へとつながってゆきます。
シュタイナーは、宇宙を構成するものを、熱、気体、液体、固体(火、風、水、地)の四元素に分けて表現しました。これら4つの要素は単に、個体、液体、気体、熱という物質状態を指しているのではなく、これらの現象の基礎を成している力や本質を指しています。 これらの要素は宇宙と人間の進化の段階と密接に関連しているだけでなく、人間の4つの構成要素とも特定の対応関係にあります。肉体は地を、エーテル体は水を、アストラル体は気体を、自我は熱をそれぞれ自らの活動の基盤としています。 さらに人間の主要臓器の中では、肺は地の要素と、肝臓は水の要素と、腎臓は気体の要素と、心臓は熱の要素と関連を持っています。
人間有機体というものが決して静止したものではなく、健康も病気も常に流動している動的なバランスの中で考えてゆくべきものであるとすれば、何かの結果として見えるものだけではなく、そこに至る、あるいは現在進行している経過(プロセス)を考えることが重要になってきます。 アントロポゾフィー医学では、人間や自然界のなかで生起しているプロセスは、塩、水銀、硫黄と呼ぶ3つのプロセスに分類できると考えます。「塩」は硬化、結晶化する方向のプロセス、「硫黄」は燃焼または溶解する方向のプロセス、「水銀」は触媒的または調和的方向のプロセスとして理解されます。 これを人間有機体の機能との関係で見た場合、神経感覚系が塩プロセス、リズム系が水銀プロセス、代謝四肢系が硫黄プロセスに対応していると言えます。
4つの構成要素、機能的三分節などの概念に基づき、精神(霊)、心(魂)、肉体からなる全体的存在としての人間の状態を認識し、さらにこれらと、宇宙を構成する地・水・火・風の4元素、さらに自然界をつかさどる3つのプロセスである塩・水銀・硫黄の三原理との間の関係を洞察することによって、宇宙という全体性との関連の中での人間存在を把握します。それによって、病気の成り立ちおよびその意味、また治療についての認識に至ります。
アントロポゾフィー医学においても、必要があれば、手術を含めて現代医学的な治療手段が用いられます。しかし原則的には、できる限りその人の持つ自然治癒力を刺激し、活性化する方法が取られます。 アントロポゾフィー医学における治療は診断と密接なつながりを持っており、アントロポゾフィー的な診断に基づいて、現在崩れているバランスを立て直すためには、どんな治療が必要であるかが判断されます。その際、病気の人間に起こっていることを認識し、それに対応して、どのような自然界の中での物質、要素、プロセスが必要とされるかを考えます。 つまり、アントロポゾフィー医学では、一人ひとりの患者のための個別的な治療を考えてゆくことになります。実際の治療手段として、アントロポゾフィー医学においては、以下のような特徴的な治療方法を用います。