循環器内科・内科・糖尿病内科

医療法人 あげつまクリニック

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アインライブング体験のご感想
 

 

“Einreibung”(アインライブング)というドイツ語は、「さすりながら何かを内部に入れ込むこと」を意味しますが、この言葉を作家・ミヒヤエルエンデが入院先のフィルダークリニークで口にしたとき、どんな療法?と興味をもちました。

まもなく医薬会社ヴェレダの取材に行き、社長が映像入りで説明してくれました。フィルダー病院にしてもヴェレダ社にしても、建物の造り、働く医師や看護師の親しみやすい人間性、さまざまな芸術療法などに、ルドルフ シュタイナーの世界観がひかえています。アインライブングの基本にも、シュタイナー的な見方がかくれていることは推察されましたが、それを経験したことのない私の理解は、長いあいだ理念的な知識にとどまるだけでした。

 

 それから20年近くたち、日本にもアントロポゾフィー看護スペシャリストの資格を持つ人たちが誕生していて、その最初のお一人である揚妻由美子さんの手で、我が身に実体験できるご縁が生まれたのです。

 

 手、足、胸、肩……仰向けに横たわる自分の全身が柔らかいタオルにほんわり包まれていく。思いだすべくもないけれど、わたしが生まれたての赤ちゃんだったとき、母の手でこんなふうに丁寧な世話をされていたのでは?

 その皮膚に、人の手、その指が、柔らかく温かく静かな動きをしている。楕円?渦巻き?レムニスカート?という感じの、かすかな描き……。

 アインライブングだ、なるほど、と頭でドイツ語を分析している私。悪いクセだなあ……ライブング=こする。アイン=中に……、うん、ラベンダーのオイルの香り、それを皮膚にさすり込んでもらっている。

 エンデもフィルダー病院で、このケアをしてもらっていたのか……そういえば日頃の彼から、学校時代のオイリュトミー授業で悪ふざけをした話など聞かされたけれど、入院してからの彼は、治癒オイリュトミーも楽しみだよ、なんて言っていた……。

 頭の中にそんな連想をつなげていたのはどれくらいの時間だったか?たぶん五分もしないうちに私は眠りこんだのだと思う。それから意識が途絶えた。 リリリリリ……アレ?かすかに聴覚が刺激されたらしい。小さく鳴るアラーム音に、アインライブングなる一連のプロセスを振り返る意識がめざめた。

 

 私は30分ほども眠っていたのでしょうか、身繕いをして隣室に出て行くと、温かいハーブティーと由美子さんの笑顔が待っていました。初対面時には揚妻先生の奥さまって愛くるしいかた、などと高齢者からの失礼な印象をもってしまったことを恥じます。日本初のアントロボソフィー看護師有資格者のひとりとしてそこに存在する姿に、大いなる頼もしさと感謝をおぼえる傘寿の私でした。

 その夜の自分のベッドでの睡眠を私は何と表現したらいいのでしょう。ああ、よく眠れました、は間違っていない。けれど、熟睡とか快眠の表現だけではもどかしい。睡眠といういとなみを超えて、覚めてからの意識状態が、通常の眠りのあとと違う。これっていったい何なのか?

 文豪ゲーテの大作『ファウスト』では、第二部の冒頭に、いくつも罪を重ねたあと深い眠りにおちていたファウストが、花咲く草むらの上を舞う天使たちの見守りのなかで、目覚め、立ちあがります。そこで語る長い独白をここに引用はしませんが、アインライブングにひそむ治癒力として私が実感した言葉を、短くひろっておきましょう。

 

   いのちの脈拍が よみがえったように 打ちはじめ‥…・

   大地よ、おまえは……

   最高の存在をめざして 努力しつづける人間の

   力強い決意を鼓舞し うながす‥…・

 

おそらくは、この世の生に眞の精神性を注ぎ込もう、と、ひたすら願って生きる人たちに、アインライブングは浸透的な助けを作用させるのではないでしょうか。私の拙い感想です。

 
(2013年12月29日 子安美知子記す)

子安美知子 氏 プロフィール

ドイツ文学者。

1970年代に家族で留学の際、娘をシュタイナー学校に通わせ、体験記『ミュンヘンの小学生』が毎日出版文化賞を受賞、日本に広くシュタイナー学校の存在を知らしめた。87年東京シュタイナーシューレ創設に尽力。教育の背景にあるアントロポゾフィーへの入り込みからミヒャエル・エンデ文学の研究へとつながる。

現在:早稲田大学名誉教授。NPO法人あしたの国まちづくりの会顧問。同法人シュタイナー学園にて活動、同法人シュタイナーフォーラムで大人たちとの学びに励む。

著書等:ドイツ文学関連のほか、シュタイナー教育、エンデ文学をめぐる著書、訳書、エッセイ、テレビ取材等。2012年、瑞宝中綬章の叙勲を受ける。

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